マーヴィン・ゲイ『Live at The London Palladium』


マーヴィン・ゲイの77年ライブ盤。『I Want You』リリース後のライブですが絶好調ですね。マーヴィン・ゲイはライブがあまり好きではなかったそうですが、それでもステージに上がればパフォーマーとしてベストを尽くす。非常に立派です。

 

なんと言ってもメドレーが楽しい。60年代と70年代に分けてメドレーで沢山の曲を歌っていますが、60年代のものも当時のグルーヴにアップデートしていて非常に洗練されている。これは聴いている方は堪らないですね。

 

不幸な最期を迎えてしまう方ですが、浮き沈みのあった活動の中でもギリギリの一線を越えずにパフォーマンスを行った記録がこうして残されている。70年代は過酷な時代だったと思いますが、それでも歌は歌い続けた。それがこうして半世紀の時を経ても楽しめるのだから、こんなに贅沢なことはありません。

 

ラストのディスコ楽曲が意表をついてヒットしたことから、このアルバムも当時とても売り上げが良かったそうです。そうした事故的なエピソードも含めて今では愛すべき作品になっていると思います。

ザ・バード・アンド・ザ・ビー『Recreational Love』


ローウェル・ジョージの娘、イナラ・ジョージとグレッグ・カースティンによるユニット、ザ・バード・アンド・ザ・ビーの2015年リリース4作目。このユニットの作品はホール&オーツのカバー・アルバム以降、耳が遠のいていましたが、配信限定の作品も良かったし、そろそろ聴き返そうと思っていたところでした。

 

男女二人組のポップ・ユニット、という意味ではスチュアート&ガスキンやユーリズミックスを彷彿とさせますが、ここでのエレポップぶりはまるで後期のギャングウェイのようです。ホール&オーツのカバーを挟んで少し音がソウルフルになったように感じますね。プリンスみたいな曲もあるし。

 

淡々としていてかつ大衆的。不思議な立ち位置ですが、足跡は良質だと思います。浮遊感と多幸感に溢れている。ちょっと過去作品も聴き返してみようかな、と思わせるアルバムでした。

トーマス・ウォルッシュ『The Rest Is History』


XTCの弟子筋にあたるパグウォッシュというバンドのリーダー、トーマス・ウォルッシュの1stソロ作品。ひっそりと昨年2023年の末にリリースされていたようで、恥ずかしながら知りませんでした。パグウォッシュは自然消滅したかと思っていたのでこれは嬉しい出来事です。

 

内容は相変わらずメロウでポップ。XTCというよりジェフ・リンやポール・マッカートニーまで遡ってしまうような出来栄えですが、XTCの『スカイラーキング』に入っている大好きな曲「Earn Enough For Us」にそっくりの「All This Hurt」みたいな曲も入っていて非常に楽しい。

 

パグウォッシュはこの辺りのオマージュ具合が行き過ぎて少し詰めが甘い感じも見受けられたので、今回のスレスレな感じは良いですね。とにかくこうした人はいてくれないと困る。XTCが好きな人は皆そう感じていると思います。

アンディ・パートリッジ&クリス・ブレイド『Queen of the Planet Wow!』


アンディ・パートリッジの新作がリリースされました。クリス・ブレイドという人と一緒に制作をしているという噂は伝わってきていましたが、6曲入りのミニ・アルバムとしてのリリース。

 

タイトル曲がジャジーな印象だったのでどうかと思いましたが、1曲目の「I Like Be With You」からして非常にいい曲。今回はメロウな路線なんですね。何となくアンディ・パートリッジはバート・バカラックみたいになってきたなあ。『ノンサッチ』の頃に確立した「Wrapped in Grey」の20年代路線をよりポップにしたような感じ。

 

アンディのここ最近の活動は誰かパートナーと組んで一緒に作品を作り上げるパターンになってきていますが、そもそもXTCの時だってコリン・ムールディングと一緒に制作していた訳なので、単独では活動しにくい人なのかもしれませんね。

スクイーズ『live at the royal albert hall』


95年にリリースされた『リディキュラス』というアルバムのツアー時のライブ音源が、その後にシングルカットされた作品群のボーナストラックに収録されていて、それらを日本独自編集盤として来日記念で97年にリリースした作品がこれ。ちょっとややこしいですが、要するにライブ音源の抜粋となります。

 

ライブで演奏された楽曲のごく一部を聴くというスタイルはかつてのライブアルバムではよくあったことですが、現在は比較的全体を収録した作品が多くなっています。配信でリリースされているパターンもありますし、フィジカルではボックスセットも組まれている。それでも熱心なファン以外はあまり手を伸ばさないのが実情でしょう。

 

とはいえ、最近はライブ音源の魅力にようやく気付きつつあって、ここのところこうした作品に手を伸ばすことが多くなりました。ライブは生き物なので、その時点でのドキュメンタリー性もありますし、演奏に勢いがあるとそれだけで嬉しい。スクイーズは演奏力も高いのでこうした音源も安心して聴けますが、やはり完全版を聴いてみたいと思わずにはいられませんね。それにしても会場の観客が一緒に歌っているのが凄い。

キャプテン・ビーフハート『The Spotlight Kid』


キャプテン・ビーフハートのこの72年リリース作品は、比較的初期に手に入れたアルバムでした。理由はひとえにビートクラブでの映像が原因だったと思います。とにかくここでの冒頭曲「I'm Gonna Booglarize You Baby」は強烈だった。

 


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本作は2014年にタワーレコード限定で国内再発されたCDですが、発売時は非常に迷って購入しませんでした。同時期にこの時期の作品の再発ボックスが出ていて、そちらを手にしたんですね。しかし、そこでの本作のラスト曲「Glider」の最後の音がぶつ切れになっていたのが残念で仕方ありませんでした。

 

で、こちらはどうかというとやはり同じでした。これは同じマスターなんだと思いますが、全体的にいい音でリマスターされているので、この点のみが非常に残念です。そこを除いてはほぼ最高。渋くていい曲ばかりの作品です。

XTC『LIVE IN BRUSSELLS 1982』


XTCのライブ音源がまたもやリリースされました。どんどん出てくるなあ。こちらはベルギーでの1982年3月7日の音源。以前にリリースされたオランダでの公演が3月8日だったのでその前日ということになります。ちょうど今3月なので42年前ということになりますが、音は古びていないですね。

 

2月に『English Settlement』がリリースされた直後のツアーからのもので、かつ翌月にはアンディ・パートリッジが倒れてしまって、以降XTCは一切ツアーを行わなくなってしまう。その直前のタイミングでの貴重な音源ということになります。

 

オランダでのライブ音源を聴いた際には、前半の『English Settlement』からの楽曲と後半の演奏し慣れた過去作品からの楽曲に温度差があるように感じましたが、ここでは左程でもなく、どちらも演奏が熱い。特にリードトラックの「Senses Working Overtime」での盛り上がりは素晴らしいものがあります。

 

観客の悲鳴も聞こえて来ますが、これは果たして本物の歓声なのか?と思う程凄まじい。人気が絶好調になる直前のタイミングだったので、この後アンディが倒れてしまったのは非常に惜しいですが、しかしこれは過剰なツアーを強いたレコード会社の責任ですね。

 

演奏楽曲はオランダ版の方が多いので、こちらはラジオ局が放送用に編集して1時間弱にまとめたものなんでしょう。コンパクトで聴きやすいですし、音質もそこそこ。それ以上にこの時期のライブはドキュメンタリー性を持っているので、記録として貴重ですし、XTCの光と影に思いを馳せるためにも絶好のアイテムです。

 

当時の様子をXTCのアンディ、コリン、デイヴの3人が語っているインタビューがXTC本の『XTCソングストーリーズ』に掲載されていますが、本当に当時は過酷だったんだろうなあ、という感覚が伝わってきます。1982年の前半はその瞬間を切り取っている訳ですね。