クラフトワーク『Techno Pop』


先日のフジロックへの出演で最近また俄に盛り上がっているクラフトワーク。86年リリースの本作については度々聴き返す作品でしたので、今回やっとリマスター盤を手にしました。今となっては結構好きな作品ですが、発売当初は『エレクトリック・カフェ』というタイトルで、正直余り食いつきは良くなかった。

 

改題して現在は『テクノ・ポップ』となっていますが、そもそも86年の段階でクラフトワークが「テクノ・ポップ」というのは余りにも・・、という感覚が当時はありました。この前作が81年の『コンピューター・ワールド』で、そこまでは時代を牽引していた、と言わないまでも同期はしていた。しかし、86年は既にYMOも散開しているし、細野晴臣はノンスタンダードでヒップホップへ邁進し、坂本龍一は『未来派野郎』で重厚な音作りを始めている。

 

本作が出た当初は細野晴臣が「まだこんなことをやっているのか・・」と発言していたのが印象に残っています。一方、坂本龍一は「改めて原点に立ち返った」という種のコメントをしていました。いずれにしても既にレトロな音像だった。時代がクラフトワークを追い抜いてしまったわけです。

 

83年の段階でリリースされたシングル『ツール・ド・フランス』は結構好きでしたし、この時期に従来のビートにフィジカルな呼吸音などを乗せて軽快に走る音楽を提示することは決して悪いものではなかったはずです。しかしクラフトワークはより高みを目指したし、常に最先端でありたかった。その試行錯誤が時代とのズレを招いてしまった。ということで非常に残念な印象が当時はあった訳です。

 

しかし、先行シングルの「ミュージック・ノン・ストップ」のミュージックビデオはとても印象的でした。あのメンバーの姿をワイヤーフレームにした映像はインパクトがあったし、その後さまざまなアーティストが引用したモチーフでもあります。

 

今回改めて聴いてみて、やはり内容は結構良くて、時代性ということを傍に置けば非常にポップでいい作品だと思います。リマスター盤で新たに加わった「テレフォン・コール」の12インチに収められていたという「ハウス・フォン」という曲がまた結構良くて、強いビートにポップな旋律が乗る感じがとてもカッコいいと思いました。

 

紆余曲折を経て、結果的に時代を超えた作品の仲間入りをしたアルバムだと思います。