サンディー『Dream Catcher』

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海の彼方に旅立ってしまった前作から一点、娑婆に戻って来たポップアルバム。とても聴きやすくて高度に洗練されていて耳に入ってきやすい素敵な音楽です。頭3曲と「Sunset」を聴いていれば充分ではありますが、ここで何故サンディーがムーヴメントを起こせなかったかを考えてみたいと思います。

まずリリースが94年1月ということで、前年のベストアルバムをミュージックマガジンから引っ張って来てみました。気になったところだけ挙げてみるとビョークの1st、ジェリーフィッシュの2nd、ニルヴァーナの2nd、電気グルーヴの『ビタミン』、オリジナル・ラヴの『接吻』、スチャダラパーの『Wild Fancy Alliance』ということで時期的にも95年の阪神大震災地下鉄サリン事件、ウィンドウズ95の前ですのでまだポストモダン期に入る前といえるでしょう。すなわちバブルの余韻が残っていて終りなき日常が続いていた時期。まだ平和でした。

ワールドミュージックのブームは去って成熟の極みが変化の乏しい退屈な毎日を紡ぎ続けていた頃、次の萌芽は見えにくかったしまだバブルの余韻も残っていた。この後どこに行くんだろう、という時にインターネットの攻勢があって一気にIT化が進んでいく。時代は1年後に転換する訳です。そういう意味では94年は平和。根拠のない不穏。そこで世界にアジアに開けていくと言っても「それで?」となってしまうしらけたムードが蔓延していたのではないかと推測します。

個人的には福島でくすぶっていた頃ですので時代の流れと生活が乖離していた。そこで本作は救いにもなったし印象にも残らなかった。そんな時期の作品です。でもいいアルバムですよ。複雑且つ崇高なベクトルを経て到達した平和な音楽。しかも凡庸ではないという素敵な作品だと思います。