WORLD HAPPINESS 2014

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天候は史上最悪。まさに嵐の中のイベントとなりました。

昨年のうだるような暑さから一転、今年は天気予報通り台風11号の直撃を受けたWORLD HAPPINESS 2014に行ってきました。伝説のフジロックには及びませんが、充分に波乱の展開。全身に雨をたっぷり浴びて帰ってきました。もう高橋幸宏は晴れ男等と言ってられませんね。あ、自分の出番の時は止んでたか・・。

今回はこれまでで最も前の方で観ることができました。実は結構前方は既に一杯だったんですが、今回のラインアップはメインステージ中心だと思っていたので、迷わず右側のゾーンに位置取りしたのが功を奏し、出演者がはっきりと見える位置を確保することができました。

今回のポイントは電気グルーヴだと思うのでまずはそこから。トリの一歩手前で出てきた電気グルーヴは今回が初出演。YMOフォロワーによる世代交代を象徴的に現す形となるかどうか見物でしたが、結果から言うと一番盛り上がってました。しかしそれは音楽的にではなくパフォーマンスとして。とにかくピエール瀧の存在感が尋常ではありません。よく石野卓球が「お前は何にもしてねえじゃねえか」と瀧に向かって言うことがありますが、実はライブではその何もしていないことが売りになっている。ただそこに立つだけでオーラが出ていて、音楽は完全にBGM化していました。たまらず石野卓球がフロントに駆け出してくることも。嵐の中に立ちすくむ姿の見事なこと。最近では俳優業もこなすピエール瀧は、その存在感と文脈読みによる観客側の盛り上がりでアイコンとして最強となっていました。

音楽的には中盤でYMOの意匠を継承した音を奏でる等、愛情たっぷりのパロディを繰り広げていて、世代交代というより尊敬の念を感じました。これはMETAFIVEにも言えることですが、フォロワーによる過去音源のアップデートはとてもポジティブになされている。まさにメタレベルでの再解釈。キーマンは砂原良徳でしたが、彼もまた元電気グルーヴな訳で、YMOの遺伝子は本人達だけでは表現できない姿で今に蘇っています。特に今年は坂本龍一が不在なだけに、オリジナルを別次元で昇華させた音の重要性を肌で感じた一日となりました。これはノスタルジアではない。

これまでWORLD HAPPINESSはYMOの最後の痕跡を世の中に残していくイベントだと認識していましたが、どうも本人達だけではその先の進化を表現できない。それが懐メロ化する直前にフォロワーによる再解釈で生き長らえる、あるいは受け継がれて行く様を見せつけられるイベントへと変わりつつあります。そういった意味でもMETAFIVEのアプローチは重要で、高橋幸宏はいい選択をしたなあと思わせることしきりでありました。裏を返せばin Phaseが余り盛り上がらないことがそれを物語ってもいるということです。

昨日一番笑ったのがきゃりーぱみゅぱみゅのステージで最前列にいたアイドルオタクの存在です。唯一完璧なダンスのコピーで周囲から思いっ切り浮いていました。一番おかしいのがそれを呆然と見つめる隣の男の子の表情。完璧なダンスとひときわ高いジャンピングに触れてはいけない雰囲気を感じ取っている周囲の視線の中で、少年の不思議そうな表情があまりにも可笑しくて、つい声を出して笑ってしまいました。アイドル系のライブではあんな人が最前列に沢山いるんだろうなあ。

くるりのステージはやはり強力で、奏でられる音の太さが意志の強さを現していました。実はあまり得意ではないんですが、それはオリジナリティというよりもコピー感が強いから。またそこに追従するファンの無邪気さが今ひとつ好きになれない理由なんですが、演奏自体はとてもタイト。実はサウンドチェックの音が一番ラフでよかったようにも思います。

細野晴臣は短パンで登場。これは逆におじいさん感が出てしまっていて、座り込む姿はまさにヨーダのようでした。演奏はどれもコンパクトでノリのいい内容でしたが、唯一ビートルズの『ディア・プルーデンス』をカバーしていたのが今後の新展開を予測させる局面でした。アレンジはまだこなれていませんでしたが、ここへ来てロックに近づきつつあるのを垣間見たように感じます。ただ風がきつそうだったなあ。ゲストはびっくりの鈴木茂

トリの高橋幸宏&METAFIVEはいきなり『Key』から始まる展開に「おおっ」と歓声が上がりましたが、何といってもアンコールの土屋昌巳でしょう。高橋幸宏も言っていましたが驚く程風貌が変わらない。このスタイリッシュさは何なんでしょう。そしてギターの音。82年のツアーの再来とのことですが、むしろJAPANの解散コンサートを思わせるその演奏には時空を超えた魅力を感じました。ラストの『CUE』では普段と違った音像を表現できていて、過去と未来が錯綜する混沌とした音に目眩すら覚えました。

とにかく嵐が背中に吹き付ける恐ろしい展開のイベントでしたが、演奏者は雨風を正面で受け止めていて皆立派でした。高橋幸宏は最後は疲れ切っていて、珍しくちょっと発言が荒っぽくなっていましたが、今回は嵐以外にも新たな展望が読めたという意味で象徴的なイベントだったと思います。