坂本龍一『GEM』

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02年にリリースされたベスト盤は3組ありましたが、その初回盤の応募券を送るともらえた非売品ディスクがあったそうで、それが本作となります。存在すら知りませんでしたが、中古屋にサクッとあったので少し躊躇した挙句に手にとりました。非常に興味深い内容です。

基本的には他人に提供した曲やアレンジをした曲、イベント等に提供した曲等を集めて年代順に並べたものですが、70年代、80年代、90年代、ゼロ前代とそれぞれ色が出ていて面白い。そんな中でも一際気に入ったのは91年の「Asian Flowers」です。何のための曲なのかご本人も判然としないようですが、これは非常にカッコいい音でした。時期的には『Heartbeat』の頃なので自分としては余り掘り下げ切れていない時期の作品ですが、とてもバランスがいいと思います。坂本龍一の場合、その時代時代に即した音づくりを行っていくので、「この時期の音」というのが時代の変化、あるいは技術の変化を現しているのが聴きどころだと思うんですが、そこに更に本人の志向が入ってくる。そうして聴くと、各年代毎の推移が分かって、非常に面白い。

例えば70年代は当然アナログな時代な訳ですが、非常に器楽的、というかセッション的、楽器の置き方がフュージョン・ジャズ的な雰囲気があって、かつ上品に感じます。80年代はアイドル全盛の時代ですので最も大衆音楽寄りの音が鳴っている。90年代に入るとグルーヴが出てきて、かつピアノの音も鳴り始める。そしてゼロ年代は(02年までではありますが、そうであっても)環境音が主体となっていき、『Out of Noise』へまっしぐら、という感じです。

どの音にも共通しているのはある種の品格だと思います。一線を外さない上品さが滲み出ていて、その緊張感、あるいは最低限の線引きによるクオリティが自然と発せられている。ここは大きい。不思議と何度も聴きたくなってしまうのは、この辺にヒントがあるような気がするんです。