デヴィッド・シルヴィアン『A Victim of Stars 1982-2012 Disc 2』

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後半20年。ここからは制作ペースも落ちてなおかつ最近の諸作は評判はいいけど難解でちょっと遠くに行ってしまったような気がします。『Blemish』『Mnafon』と続いた現代音楽風の作風はちょっと人を寄せ付けないですね。隠遁が高じて最早出家の趣。森の中に迷い込んだ精霊のようです。これはもうついていけないよなあ。聴いてその魅力が分かるまでに20年は要しそうな、あるいは死ぬまでその魅力が分からないかもしれない。

弟のスティーヴ・ジャンセンとナイン・ホーシズを組んだ時は少し俗世に戻ったかな、という気もしましたがそうでもなくてひたすらに暗く孤高な世界へ飛び立ってしまいました。そんな感覚を抱いているファンは多いんじゃないかな。ある種アンビエント期の細野晴臣のような、引き蘢って自らの世界に没頭するような、その割に『World Citizen』でまた坂本龍一と合流したりして何とも掴みどころがないんですが、大衆音楽から一定以上の距離を置いてることは事実だと思います。

エレクトロニカの波があって、そこにビョークもスケッチ・ショウも反応した。デヴィッド・シルヴィアンの反応の仕方はそこに自らのボーカリストとしての覚悟を乗せたんだと思うんです。最近の田島貴男にも見られるような声の追求、ボーカルを中心とした歌の構成、そのバックにエレクトロニカの静かなノイズが響く。ここでは自然との融合から転換した世界観が覗きます。電子音のノイズでも森は表現できる。それは声というものが限りなくオーガニックだからですね。その声を徹底的に味わえなければ最近の諸作は楽しめないと思います。でも音楽なんで、ポップスなんで、背景の演奏と一体になった肉感への回帰があってもいいように思うんですが、デヴィッド・シルヴィアンにはそれは求めちゃいけないんですかね。いけないんでしょう、きっと。うん、いけないいけない。そうかな?

何となくもう一回復活するような気がするんですよ。皆80年代組が歳をとってきて、これまでの活動の総決算を行っている。そうせずに先の世界に行こうとする姿勢が評価されてる訳ですが、前にも書いたようにそこまで気張らなくていいんじゃないかなあ。時代が求めているのはもう少し暖かいもののような気がします。そこに気付くまでには少し寝かせる期間が必要かな。そんなんで軽く10年くらい経ってしまいそうで、そうすると死んじゃうよ。そいつは哀しい。ここで終わるのはちょっと勿体ないかな。

で、最後に新曲が入っています。『Where's Your Gravity?』ですが、基本線は余り変わらない。ただボーカルが少し柔らかくなったような気がします。バックの音の質感は少しだけ2ndの『Gone to Earth』に近いような・・。キーボードの音が鳴っているのが影響してるかな。鍵はこの辺にありそうです。音の隙間をこれまでリチャード・バルビエリや坂本龍一が埋めてきた訳で、そこが実は大事なのかもしれません。微かにベースが鳴っているのも聴き逃してはいけませんね。