デヴィッド・シルヴィアン『A Victim of Stars 1982-2012 Disc 1』

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デヴィッド・シルヴィアンの年代順シングル曲ベストが出ました。2000年にリリースされたベスト盤『Everything And Nothing』ではシングル曲というより未発表曲や本人独自の選曲によるベスト、という意味合いが強かったのでこれは嬉しいリリースです。でもきっと本人は不本意なんでしょうね。発売元もヴァージンだし。ヴァージンはXTCとも揉めに揉めた経緯を持つ会社なので、アーティスト側からは評判がよろしくない。ワーナーとプリンスの確執みたいなもんでしょうか。レコード会社って一体・・。

とにかくまず音がいい。『Ghosts』の歌い直しヴァージョンから始まって『Bamboo House 』『Bamboo Music』と往年の絶頂期の音が鮮やかに蘇ります。それからジャケットがカッコいい!この人は本当に綺麗な人で、80年代の写真はどれも惚れ惚れしてしまいますが、それが後にビジュアル系という形で追随されるとは夢にも思いませんでした。まあデュラン・デュラン経由かもしれませんが。いわゆるしゃくり上げ唱法もニューウェーブ直系で、鈴木慶一なんかもこれに目覚めた訳ですが、昨今のビジュアル系でも最早定番の歌い方でちょっと辟易します。でもデヴィッド・シルヴィアンは元の声が渋いもんだからあんまり目立たないですね。

1枚目のディスクは82年から92年までの10年間でこの辺がまずは絶頂期。ジャパン解散後1stが出た時の『Pulling Punches』のチョッパーベースには驚きましたが、その後のジャズテイストの展開やロバート・フリップとの邂逅等、独自の世界観をポップに提示していく手法はほんとに色褪せなくて時代を超えていました。それに加えてあんなに美しいんだから言うことはない。今回のジャケットもグレーあるいはシルバーのテイストですが、この系統の色合いがとても似合いますね。モノクロでこんなにカッコいいなんて実物を見たらひっくり返りそうです。女性のファンも根強いですよね、いまだに。

2ndも自分は大好きで、もしかしたら一番好きかもしれません。二度と同じフレーズは弾かないロバート・フリップとのコラボレーションは大変だったと思いますが、それでも一時期キング・クリムゾンのボーカルに誘ったというくらいですから仲がいいんでしょうね。合ってますよ。結果的に。何と言えばいいんでしょう。ある意味古典のような、古い絵を見るような、そんな感覚が見事に描かれていてこちらも綺麗です。『Silver Moon』で見せる超ポップな美しさは稀に出てくるデヴィッド・シルヴィアンの開かれた個性が爆発する佳曲で、この世界には全人類がノックアウトされて当然です。この時代にこんなエヴァーグリーンなメッセージを送れたのか。一方でスミスとかが出てきている訳で、何故にこの隠遁ぶり。いや、この籠る姿勢が小沢健二同様大切な訳で、メディアに晒された経験があるからこその達観が現れていると見るべきでしょう。固定ファンもしっかりいて収入も安定して、ってここは考え過ぎかな。

3rdで更に枯れていく。この枯れ具合がこの頃までは丁度良かった。大衆性とのバランスが保たれていたんですね。ここでは徹底してセピアな世界。『Orpheus』なんかのPVは良かったなあ。その後Rain Tree Crowでジャパンの再結成に至るまで続くこの自然との融合感覚は90年代というより次の世紀の静けさを感じさせてくれました。何か変わらないものがある。それは世間の狂騒とはかけ離れたところで静かに息づいていて、例えどんな悲惨なことがあっても淡々と流れる水のように流れては消え流れては消え・・といった悠久の時間軸を感じさせてくれます。アーティストというのは脆くて強い。記録がもたらす記憶に遥かな追憶を感じざるを得ません。

『Tainai Kaiki』で終わりますが、坂本龍一とのコラボレーションで挟まれるこのディスク1では時代というより変わらぬ美意識を見てしまいます。