高橋幸宏『...ONLY WHEN I LAUGH』

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86年リリースのこのアルバムは高橋幸宏から興味が薄れていた時期の作品でずっと手を出さずにここまで来ました。前作『ONCE A FOOL』の甘いサウンドについていけなかったのが原因ですが、その後同作は結構聴くようになったのと、EMIイヤーズの作品を一気に聴いていったので、このアルバムもいつかは聴かねばと思っていた矢先の中古屋での発見、ということで30年近く経ってようやく聴けた訳です。

印象はやっぱり甘い。想像通りの音でその後のEMIイヤーズに直結していますね。ある意味子供には理解できないとも言えます。86年というと坂本龍一は『未来派野郎』細野晴臣FOEということでYMOメンバーが失速し始めた時期でもあります。先日聴いた『アフター・サーヴィス』のドンシャリ系の音から連なる時代を感じさせる音の世界観は俗世にまみれたようで先鋭感が失われて落ち着いてきた印象が強く、中でも高橋幸宏は純然たるポップス路線を追求していて正直がっかりしたことを覚えています。今聴くと落ち着いていていい曲も多いんですが、当時はそういうものは求めていなかった。常に先端を走っていって欲しかったという幻想に捕われていたんですね。とはいえ何が先鋭か、というのは人それぞれではありますが。

一方、同じTENTレーベルのムーンライダーズは同年に『Don't Trust Over Thirty』を出していてこれが凄い作品だった。この差は一体何なのか。一言で言えばバンドとしての緊張感。ソロになればやはりやりたいことをできるし、緊迫度は薄れます。ライダーズはその後限界を来した上での休養に入る訳ですが、高橋幸宏はレーベルを移籍して順調に(体調は不調)リリースを重ねて行く。この対比が面白いですね。

高橋幸宏の場合、ヒリヒリした神経質な感触と王道ポップス路線のハイブリッドが真骨頂のように思えますので、こうした甘さに振れた方向はやはりちょっと・・という感じがします。意外と疲れている時に癒される音ではあっていいっちゃいいんですが、その前の構築感とその後の心痛3部作にある精神性の狭間にある本作は炭酸が抜けたコーラのようでやっぱり不足感が否めない。そこに鈴木慶一のエッセンスが入った翌年のビートニクス2ndはこれがまたよかったりするんですよね。ということは単独ではやっていけないタイプのアーティストなんじゃないかなと思ったりもして。pupaもそうですが外からの刺激があってこそのアーティストであって、その懐の広さが魅力の一部をなしている。WORLD HAPPINESSなんかもそういう意味では必然であって、YMO再々結成の橋渡し的な部分をライブ主体で進めていく原動力にもなる人間性を有している希有なコミュニケーション力を持った人なんだろうと思います。