一十三十一『CITY DIVE』

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一十三十一(ヒトミトイ)の新作。今回は流線形のクニモンド瀧口プロデュースということでほぼ鉄板の出来を予想していましたが、やはり想像通りの快適さです。少し違ったのは70年代というより80年代の香りがするということでしょうか。

流線形はボーカルが弱いな、と感じていたので今回一十三十一の声がパーツとして導入されたのは完成度を高める上でとても貢献しているように思います。しかし今の時代にこうしたシティポップスのレプリカを奏でることにどういった意味があるんでしょうか。90年代に過去の音楽を掘り起こして再解釈する時期があったし、ティンパンアレイ一派を再評価する気運も盛り上がりました。コンピレーションの『キャラメル・パパ』がリリースされたのが96年ですね。そこから10年以上経ってスタンダードとして定着したこうした路線が今どう響くんでしょう。恐らくは好きな人が好きな音を出す。ただそれだけなんだと思います。そして一定の支持者が存在する。この快適さには勝てないですよね。

思うにジェフ・リンがビートルズへのオマージュを長い間かけて活動の糧としたことに似ているんじゃないかと思います。ELOのある意味胡散臭い感じ。でもそれはそれでフォロワーとして美しいんです。そしていつの日かオリジネイターをプロデュースするに至る。

80年代風というのはある意味打ち込みの音を柔らかく内包している感じなんですが、これは一時期のキリンジもそうでした。その後、そうした路線は定番化していますしキリンジの場合はそれを越えていくパワーがあります。その境地に一十三十一は達するか、というより流線形がそこまで行くのか。決して望まれてないような気もするし、本人達も望んでないような感じもありますが、突き抜けるとはそういうこと。フェイクを越える時がきっと期待されるんだと思うんです。快適でカッコいいんだけど、それ以上を求めてしまいます。

それにしても今この時期にこの音。貴重ですね。