カーネーション+政風会『DUCK BOAT』

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このアルバムは『水門』に尽きると思います。

カーネーションの『アーリー・イヤーズ・ボックス』は手にするかどうか迷っていましたが、やはり後で後悔するのも何なので入手してしまいました。初期のカーネーションはメトロトロンのイメージが強くて、「とうとうムーンライダーズの弟バンドが出てきたか」と当時喜んだものでした。このアルバムは鈴木博文直枝政広(当時は直枝政太郎)のユニット「政風会」との共同名義で発売された変則的なアルバムですが、初期鈴木博文のソロ作品と直結したモノトーンな仕上がりとなっています。ドラムが全て打ち込みであるところがメトロトロンのポコポコした音の質感の印象を強くしていると思います。

それにしても『水門』はいい曲ですね。この曲がなかったら自分はカーネーションを追っかけてはいかなかっただろうと思います。直枝政広の歌は最初から上手くて、ある意味今と全く変わらないんですが、どうしても初期の曲は地味な印象が強くて、まだメリハリが出ていない。でもこの『水門』はメロディや構成に光るものがあって、一発で引っかかりました。

鈴木博文直枝政広の送ったデモテープを聴いて「この人は自分と同じ風景を見ている」と感じた直感がその後こんなに長い活動期間に繋がるとは。正直まだ稚拙な部分もあって、一皮むけるのは『エレキング』まで待たねばならないんですが、それでもそこかしこに「日本のXTC」の雰囲気が漂っています。このアルバムではまだそれが開花していない。ここはやはり湾岸スタジオに直結しているんですね。

鈴木博文がメトロトロンを船出するにあたってミオ・フーと共に不可欠な並走者としてカーネーションの存在が大きかったことは当時の活動を振り返ったインタビューでも明らかです。かなり勇気をもらったんじゃないでしょうか。この後グランドファーザーズも出て来る訳ですし。派閥を形成するのに似合わないムーンライダーズですが、メトロトロンは自然に結集された同好者の集まりで、「この人たちなら分かってくれる」と思った人達が標的にした格好の団体だったのではないかと思います。