ラスト。最後は41分であっという間に終わってしまいます。ほとんどアンコール・ディスクのようですね。
それにしても優しい歌声です。全33曲というボリュームを感じさせない、ボサノヴァのしっとりとした終わり方。しかもその後、高橋幸宏は歩き続けている。区切りといっても周囲から企画されたものに乗った形なので、左程の気負いもなく、楽しんで記念の一夜を過ごしているような感があります。朝方まで最後は一人で飲んでいたようですし。
「幸宏さんのボーカルは自分にとってデフォルト」とテイ・トウワが語っていましたが、巡り巡って自分にとってもそうなのかもしれないなあ、と考えました。基本は勿論ドラマーなんですが、何とも言えないロマンティックな佇まいと繊細な声は、実は記憶の中にどっしりと座っている。珍しいタイプの音楽家かもしれません。鋭さというより周囲を甘く包み込んでいく。
年季を重ねることがこんなに重要だということに気付いたのはやっぱり最近のことなので、背景にある哀しさが響いてくるのは自分もその年代の後を追いかけているからなんでしょう。そんな時にいつも寄り添ってくれるような、そんな優しさと深さがあって、音楽全体が暖かい毛布のようです。こんなことを考えさせられるアーティストはそんなに多くないですね。というより他にいない。それが高橋幸宏の魅力なんだな、と暖かい音を聴きながら思いました。感謝しなければいけない。
自然体でいること。そのスタイルを高橋幸宏からは教わっているような気がします。