トッド・ラングレン『A Cappella』

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トッド・ラングレンの85年リリース作品は自らの声のみで構成されたアカペラ作品でした。当時は既にサンプリングの技術は世に出てきていましたが、それをテクノではなくこうした形で表現してきた点は新しさという点よりもならではというアプローチ。あくまでポップミュージックという形態に落ち着かせた上、ソウル、ゴスペルの要素にお得意のメロディアスな楽曲で全体を覆う形でテクノロジーを駆使していくというのはなかなかに痛快です。

今聴くと稚拙な部分も目立ちますが、これを宅録で押し切ってライブではコーラス隊と共に全体を表現する形式をとったところも真っ当ながらセンスがあって「まだいける」と思わせます。同年リリースのユートピアの最終作が閉塞感を示していたのとは対照的に、実験性が良い形で実現できていて素晴らしいと思います。

ここからしばらく生音への回帰が起きる。次作ではバンドサウンドへと発展する一時的な回帰現象は歓迎すべき傾向でしたが、それが一転、インターネットによる音楽制作という未知の領域で模索していく展開になろうとは。いずれにしろ本作は実験性と大衆性のバランスがとれていた最後の作品ではないかと思います。