トッド・ラングレン『No World Order』

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御大の実験精神は70年代から脈々と続いていて、ここにも『Initiation』のB面すべてを使ったインストや『A Capella』でのサンプリングによる音の構築といった要素が窺えます。しかしながら、これはやっぱり企画倒れだし、時代の先を読み違えたアプローチだと言わざるを得ないでしょう。その後の活動のブレ方がそれを証明しています。黒歴史といってしまってよいかと思います。

何故こうしたアプローチをとったか?その動機の方を考察することにむしろ意義があるように思います。92年から93年というとまだWindows95も出ていない時期ですから、まだまだインターネットに音楽活動を委ねるには時期尚早です。坂本龍一同様、この人も今の音楽配信の未来を見据えていたんだと思いますが、インフラが整うまでにはまだまだ多くの時間を必要としていた。

昨今のMETAFIVE の音楽の作り方に顕著なように、現在では音の破片をメーリングリストで送り合いながら楽曲の制作もできる環境にある。しかもそれをリスナーとも共有していくようなアプローチをトッドは夢見ていたんだと思います。

今現在、トッドの新作はEDM寄りになっているので、ここでのアプローチがまだ息絶えてはいないと見ることも可能ですが、そろそろやめた方が良いでしょう。過去を振り返る、というより過去の遺産を踏まえて更に活動をアップデートしていくのが正しいやり方だと思うし、ビジネス的にも恵まれるのではないか。そんな風に思います。