『夏草の誘い』

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75年リリースのこの作品は『フランスの恋人たち』のあまりのカッコよさにそればかり聴いていた印象がある。実はその後の2曲目『ジャングル・ライン』が大きな壁で、そこでのシリアスな印象が全体を覆ってしまっていてその先に進めなかったんだ。でも改めて聴いてみるとこれはいい曲揃いの素晴らしいアルバム。そう。悪い訳がないんだよな、この時期のジョニ・ミッチェルが。何となく想像はついていたが、こいつも傑作ですね。

エルヴィス・コステロがカバーしたという『イーディスと親玉』もいいし、その後の『悲しみはともだち』の浮遊感も最高だ。この辺のコードチェンジ、ストロークの気持ちよさがその後のアルバムでも頻出してくる。まさに快楽。『美しい誘惑者』『夏草の誘い』と気だるい気持ちいい曲が連続技で畳み掛けてきて、完全ノックアウト。既にもう一度聴きたいと思わせる奥行きがある。

何といっても曲が複雑だ。ジャズ、フュージョン路線の2作目ではあるが早くも成熟度が増してきていて、かつ物腰はナチュラル。バックの演奏があまりに複雑な割には曲の印象は聴きやすいという離れ業。こいつはリトル・フィートにも似た振る舞いで、聴き込まなきゃ損というものだ。B面はスローな曲が多いので、派手な1曲目に隠れてしまいがちだが、各々味わい深いお茶を飲むようでとても染みてくる。

音もまろやか。かつて聴こえてこなかった椅子のきしみ音なんかが発見できた。98年のリマスター音源らしいので最新の音ではないが、充分だ、これで。ジャケットもまたもやエンボス仕様。見開きの内側にはジョニの水着姿も。この人は裏ジャケでヌードになったりして急にこんなことをする人だ。決して美人ではないんだが、とても魅力的な女性だと思う。

ラストの『シャドウズ・アンド・ライト』は後年リリースされて映像作品にもなったこの時期の集大成ライブのタイトル曲。ライブではゴスペルの男性グループと一緒に歌っていたが、ここで既に完成を見ている訳だ。この後続くアルバムはジョニ・ミッチェルと出会った頃の完璧な作品群なので、今から聴くのが楽しみ。ああ、至福の時間!