フランク・ザッパ『Roxy By Proxy』

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ロキシーがもう1枚味わえる日が来るとは想像していませんでした。

映像素材も眠っているというザッパデビュー10周年の73年ライブ。その映像の制作費が足りずに一時は販売権を売る形で作品化された音素材が通常盤として発売されました。映像化までの道のりは遠そうですが、何といっても『Roxy & Elsewhere』が壮絶な内容でしたので、別バージョンが出るというだけでも有り難い。75分49秒、堪能させてもらいました。

とにかくこの時期の鉄壁の布陣での演奏はソウルフルです。ツインドラムによる音の厚さにジョージ・デュークのキーボードが乗るだけでもファンキーですが、超絶的なルース・アンダーウッドのパーカッション、かつ今回はベースの音が太い。全体としてライブ感たっぷりの作品となっています。

冒頭の『Inca Road』は恐らくこちらが初期バージョンなのでしょう。翌年以降の正規バージョンは変態的な超絶テクニックのカッコよくて特異な楽曲になっていますが、こちらはどちらかというとジャズがベース。これを聴くと変態的な旋律が不思議と自然に納まっていて、これを半ば無理矢理ロックに変換していったのがその後の経過だったことがよく分かります。楽曲がライブによって短期間で進化していく。当時のファンはそれをスリリングに味わっていたことでしょう。

『Roxy & Elsewhere』では『Don't You Ever Wash That Thing』でのジョージ・デュークのソロ、ラルフ・ハンフリー、チェスター・トンプソンのドラムによる掛け合いが最高の瞬間で何度も鳥肌を立てて聴いていたんですが、演奏は本作よりも『Roxy & Elsewhere』の方がいいですね。とはいえ、最後のドラムソロの掛け合いが交互から同時になって『Cheepnis』に移っていく瞬間はハッとさせられました。

難があるとすればザッパのギターソロが若干少なめなこと。うねるリズムに乗るギターの艶っぽさがこの時期極上なだけに、もう少し弾いていてもいいんじゃないかと思いますが、パートとして元々なかったんでしょうか。『Roxy & Elsewhere』は編集してから作品化されていますから、今回の素のままの音の方が実際のステージでのものなのかもしれません。

ザッパは長い活動の中で何度かのピークがありますが、やはりこの時期は脂が乗っていて最高だと思います。超絶演奏でありながら楽しそう。かつグルーヴィーなのが素晴らしい。映像化を気長に待つことにします。