坂本龍一『Coda』

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昨日はずっと観ようと思っていた坂本龍一ドキュメンタリー映画を有楽町まで出向いて観て来ました。帰り道に寄った中古屋で見つけた再発タイトルとたまたま同じ題名ですので、ダブルミーニングで双方をレビューしてみたいと思います。

映画の方は平日昼間とあってお客さんもまばらで、ゆっくりと鑑賞することができました。震災以降と喉頭がんの手術、そして新作の制作に至る期間を中心に据えた映像でしたが、実際にはYMOの映像や過去のソロ活動に関する映像も挿入されたりして、坂本龍一の半生を振り返るかのような内容にもなっていました。冒頭、タイトルが出るまでかなり長いんですが、陸前高田での「戦場のメリー・クリスマス」のピアノ演奏で既に涙腺が緩んでしまうという事態に一人で困惑しつつ、ゆっくり本を読み進めるかのようなタッチで描かれていく内容にはとても好感が持てました。

近年の「音」に関するこだわりとその制作過程は興味深く観ることができましたし、坂本龍一自身の様々な案件に対する意思のようなものをご本人の言葉で丁寧にテンポよく語っていく様は印象的です。ラストは意外とあっけなく終わってしまうので若干の物足りなさも感じてしまいますが、充分堪能出来る内容です。

で、本当は『BTTB』あたりを聴いてみたかったんですが、たまたまあった本作の紙ジャケ再発の中古品をお土産にして、今のタッチで演奏される音との差を噛み締めています。「戦場のメリー・クリスマス」のピアノ弾き語りバージョンが今現在のデフォルトですが、その出発点がここにあることに今更ながら気付いたという体たらく。リリース当時はサントラにさほど興味を抱いていなかったので、きちんと聴くまでにここまで時間がかかってしまいました。

Coda=最終章とのことで、音楽の方は戦メリ騒ぎの一段落、映画の方は人生の終わりを想起させます。映画の題名にこれを選ぶかどうかは最後までご本人は抵抗されたようですが、それは今後も活動を継続していく意欲の表れですので、とても微笑ましく捉えることができるでしょう。