フランク・ザッパ『The MOTHERS 1970』disc 1

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今年は1970年から50年後ということで、1970年の作品を振り返るプログラムが各所で見受けられますが、ザッパ関連でも1970年に結成された第2期のバンドに焦点を当てたボックスが発売されました。

 

実は70年代初頭のザッパの活動については左程注意を向けていなかったんですが、先の「70sクロニクル」という番組などを観るにつけ、この年はザッパにとって転機だったんだなあ、と認識を新たにしているところです。

 

第1期マザーズ・オブ・インベンションを解散してザッパが集めたメンバーはまずはドラムのエイズリー・ダンバー。この人のドラムは本当にカッコ良くて好きです。

 

そしてキーボードにジョージ・デューク。この人はジャズ畑でジャン・リュック・ポンティと一緒にザッパが引っ張ってきますが、結果的に一度キャノンボール・アダレイの演奏に参加するため抜けて、再度またザッパの元に戻って70年代中期の全盛期を支えるという重要なメンバーです。

 

ベースはジェフ・シモンズで、この人がバンドに参加したのは僅か半年ほどです。従って鳴り物入りの第2期マザーズは当初メンバーでは70年の12月までしか続きません。『200Motels』の映画の撮影時に抜けてしまうんですね。

 

第1期マザーズからの生き残りはイアン・アンダーウッドのみ。この人は才人でなんでもできる人なのでザッパの信頼も厚かった。そしてタートルズからマーク・ヴォルマンとハワード・ケイランを引っ張ってきてボーカルに据える。これが賛否両論あるにせよ、後のザッパの演劇的なステージを牽引していく個性となります。

 

これらのメンバーにザッパ本人を加えて計7名。この第2期のバンドのキックオフ的なスタジオ・セッションが今回のボックスの1枚目です。

 

印象としては70年代の初期の音は第1期マザーズ後期の現代音楽的なテイストをまだ残していて、『アンクル・ミート』や『バーント・ウィーニー・サンドウィッチ』で聴かれるような複雑でクールな構成の楽曲が目につきます。まだメンバーも恐る恐る参加しているような感じで、後の演劇性あふれる絶好調には達していない。ボーカル・パートが少ないせいもあるかな。

 

70年代初頭のマザーズを分かりやすく表しているのは同年発表の『チャンガの復讐』になりますが、本ディスクもそこに至るまでの習作を聴いているかのようです。でも既に十分カッコ良くて、この時期のバンドが形成されていく過程を見せられているようで興味は尽きません。

 

第2期マザーズはその後ザッパがステージから転落する事故が起こる71年末まで続くわけですが、それでも僅か2年。恐ろしいスピードで変化していったアーティストです。