坂本龍一『async』

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音楽というより「音」。

前作『Out of Noise』から8年の歳月を隔ててリリースされた坂本龍一の新作は震災を挟んでの作品となりました。それでも前作で示された方向性からの継続性は保たれています。それが良いのか悪いのか。少なくとも詩人や俳人のような音のつぶやきに見出せる静謐な趣は、何か正式なものにマッチするような気がしています。

たまたま本日が自分の母親の退院日にあたるのでそう思うだけかもしれませんが、実際こうした記憶に残る日、残すべき日に聴く音楽としてはとても合う。何より静かだし、音に身を委ねる喜びは何者にも代え難い。ただ、これは音楽なのか。楽しいのかどうかと聞かれると少し疑問が湧いてきます。

大方の人にはこの作品の内容は解説付きでないと伝わらないでしょうし、実は様々な言説が後からついて来ることを前提としたメディアプロモーションが行われている。ここは作品の発信者には左程意識はないでしょうが、販売側には戦略としてあるように思います。それでこの音に接して果たしてどれ程の人が振り向くかというとやはり難しいかな。そしてそれでいいんだと思います。